村八分経験者が語る地獄

村八分で僕は地獄を見た(今井亮太)

僕はとても些細なことが原因となり村八分にされた。僕は南馬宿村に住んでいたしずっと住む予定だったが、村八分にされてしまい村に留まることが不可能になってしまった。

僕が南馬宿村に移住したのは平成18年5月のことだった。限界集落である南馬宿村に移住した理由は、都会の喧騒から逃れ悠々自適なスローライフを楽しむためだった。無機質なコンクリートジャングル、すれ違う人たちは凍てつくような冷酷な目つきをしておりまるでテロリスト、都会は僕の身も心もボロボロにした。オフィス街では怒りや憎悪が渦を巻いており、健康に自信のあった僕ですら3年であらゆる体調不良が出始めた。

皆さんは田舎と言えば次のようなイメージをお持ちではないだろうか?

・静かでのんびりしている
・人々はおおらかな性格で、とてもフレンドリー

僕も南馬宿村に移住するまではこのようなイメージを持っていた。しかしいざ住んでみてそれが真逆だったことが分かった。

朝の6時に草刈りの手伝いをしてくれだのバキュームカーがスタックしたから押すのを手伝ってくれだのと、1日の頼まれごとは軽く20は超える。1日の半分以上は村人の頼まれ事で潰れてしまっていた。僕はこれでは思い描いていた悠々自適なスローライフを送ることができないと考え、思い切って頼まれごとを断ることにした。

冒頭で村八分の原因は些細なことだったと記したが、僕にとっては”些細な事”だったかもしれないが、村人らにとっては”とんでもない事”だったみたいだ。

忘れもしない、平成18年12月22日。大雪で24時間の積雪が80cmを記録した日、僕は朝の5時にドアを激しく叩き

「亮太!雪下ろし手伝ってくれ!」

と叫ぶ久雄を思い切って無視したのだ。スローライフを楽しむ為という理由もあったが、朝の5時はまだ外が真っ暗なので危険を伴う作業を出来る限り避けたかったと言う気持ちもあった。

しばらく無視をしていたら勝手に久雄が家に上がってきた。勝手に人の家に上がり込む事は南馬宿村では当たり前の光景だが、私は頼まれ事を断るためには強い意思表示が必要だと思い

「久雄さんすみません、ちょっと今日は無理なので…出て行ってもらえませんか」

と少し強い口調で久雄を追い出した。久雄は今思えば村人との会話はこれが最後であった。

僕はまた布団に戻り3時間位眠ったのだが目を覚まして不思議な感覚に陥った。朝の8時過ぎのはずだが外が真っ暗なのだ。僕はこれは変だと思い家の外に出ようとしたら大量の雪が家の周りに積もっていて一歩も外に出られなくなっていた。どうやら雪下ろしを断った腹いせに大量の雪を僕の家周辺に廃棄されてしまったようだ。家の屋根の高さまで雪を積まれていたので光が遮られて真っ暗になっていたのだ。ドアも明けることができず、今にも家が潰れそうだった。

村八分の始まりだ。

私は村八分にさてもすぐには悲観的にはならなかった。なぜなら村八分にされれば煩わしい頼まれごとも無くなりスローライフを楽しむことができる…と思っていたからだ。

命からがら家の外に出ることができた僕は、久雄に幼稚なことをするなと文句を言おうと彼の家に向かった。しかし途中で何者かに水をぶっかけられてしまい、体温が低下し始めたので一旦家に帰って着替えてから出直すことにした。家に向かって歩いていた僕は衝撃的な事実を目のあたりにすることになる。なんと家が激しく燃えていたのだ。

なんという酷いことを…。僕はしばらく呆然と立ち尽くした。皮肉なことに僕は自分家を包む炎で服を乾かし身体を温めるていたのだ。

僕は村八分を完全に舐めていた。村八分は二分、つまり火事や葬式は助けてくれると思い込んでいたが、それは大きな間違い。住む場所が灰になってしまった私は一番親しかった児玉氏に助けてもらおうと彼の家を訪ねた。実は児玉氏も平成18年に南馬宿に移住した、所謂同期生みたいなものだ。

もう間もなく児玉氏の家にたどり着くと思った瞬間、僕の足下から地面が消えた。ズドンッ!僕は落とし穴に転落してしまった。腰を強打し苦痛の表情を浮かべながら上を見上げたら男が覗き込んでいた。目があった瞬間男は顔を引っ込めたが、あれは間違いなく児玉氏だった。一番親しかったはずの児玉氏が…。

しばらくしたらトラックのエンジン音が聞こえ、落とし穴の入口付近で停車したようだ。落とし穴の入り口から蛇腹のホースヒョッと入り込んだ。

「やばい!コンクリートミキサー車だ」

セメントが流されて僕は埋められてしまうと思ったが、蛇腹のホースから出てきたのは糞尿だった。トラックの正体はコンクリートミキサー車ではなくバキュームカーだったのだ。

命拾いをしながらも地獄を見た僕は糞尿の浮力で落とし穴から脱出することができたが、身体を洗うところが思い浮かばなかった。村八分にされてしまった僕はもう二度と村人を頼ることはできない。雪の降るなかやむを得ず僕は冷たい川の水で身を清めた。勿論身を清めると言っても精神的にではなく、物理的な汚れをに対することである。

僕はなんとかこの村に留まろうとしたが、トラックが突っ込んできたり石を投げられたり、後ろから突然棒のようなもので殴られ3日後に逃げるような形で村を去った。転出届を出す余裕すら無かった。転出届を出さずに村を出た場合でも、1ヶ月以上村人の目撃情報がなければ職権で除籍してくれる制度が南馬宿村にはある。僕はそれに該当する。

(今井亮太)

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